COLUMN
お役立ちコラム
2020.11.09
リードブレーン株式会社
テーマ:
職務代行者を選任することができる場合とは?
事例
Y株式会社代表取締役Aに会社の金銭を使い込むなど不正行為がありましたが、株主総会でAの解任議案が否決されたため、私は、現在取締役解任の訴えを提起しています。このままAに職務の執行を続けさせることは適切ではないと考えていますが、Aの職務執行を停止し、Aの職務を代行する者を選任することはできないでしょうか。また、職務を代行する者として選任されると、どのような権限をもつことになるのでしょうか。
ポイント
実務解説
代表取締役Aの代表取締役としての職務執行を判決の確定まで暫定的に停止するとともに、その代表取締役の職務代行者を選任する仮処分を申し立てることができます。取締役の職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に限定され、常務に属さない行為をするには、裁判所の許可が必要となります。
職務執行停止・職務代行者選任の仮処分
本事例のように代表取締役が会社の金銭を使い込み、取締役解任の訴え(会社854)が提起されても、それだけでは当然にその代表取締役及び取締役の地位に影響は生じず、判決が確定してはじめて代表取締役及び取締役としての地位を失うことになります。しかし、判決の確定までには一定程度の時間がかかるところ、その地位に争いのある代表取締役が判決の確定まで引き続き職務を継続することは適当でないと考えられます。
そこで、このような場合、本案である取締役解任の訴え等の原告適格を有する株主は、被保全権利及び保全の必要性(当該代表取締役がそのまま職務を執行すれば会社に著しい経済的な損害が発生すること)が認められる場合は、民事保全法上の仮の地位を定める仮処分(民事保全法23➁)の一種として、本案の訴えを管轄する会社本店所在地の裁判所に対し、会社及び代表取締役の双方を債権者として、その代表取締役及び取締役としての職務執行を判決の確定まで暫定的に停止するとともに、職務代行者を選任する仮処分を申し立てることができます。被保全権利となる本案訴訟の請求として認められるものには、取締役解任の訴えのほか、取締役選任決議の不存在・無効確認の訴え(会社830)、決議取消しの訴え(会社831)、代表取締役選定の取締役会決議無効確認の訴えなどがあります。
また、職務執行停止中の取締役が仮処分の趣旨に違反して行った行為は無効であり、事後に仮処分が取り消されても、遡って有効になるものではありません(最判昭39・5・21判時376・46)。
職務代行者の権限
取締役の職務代行者は、本案の確定までの暫定的地位を有するにすぎないことから、取締役の職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、本来の取締役の権限より制限されています。すなわち、取締役の職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務(会社事業の通常の経過にともなう業務)に限定され、新株発行、事業譲渡、定款変更など常務に属さない行為をするには、裁判所の許可が必要となります(会社352①・868①・なお352➁)。