二以上事業所勤務届とは?書き方・提出先・出さないリスクを社労士が解説

お役立ちコラム

COLUMN

2026.10.05

リードブレーン株式会社

テーマ:

二以上事業所勤務届とは?書き方・提出先・出さないリスクを社労士が解説

notification-work

二以上事業所勤務届は、社内に経験者がいないまま突然担当することになりやすい手続きです。
日本年金機構の公式ページには様式も記入例も揃っています。

しかし、提出するのは会社なのか本人なのかがわかりにくいと言われています。
おそらく多くの人が、検索を繰り返しているのではないでしょうか。

この記事では、対象になるかどうかの判定から記入例、提出先、保険料の按分計算、退職時の手続きまでを社労士監修で解説します。
まずは結論から確認してください。

この記事でわかること
  • 「うちの会社が出すのか、本人に書かせるのか」で止まっている担当者が、明日から動ける手順
  • 提出期限の10日をすでに過ぎてしまったときに、何から連絡すればいいのか
  • 2社から報酬をもらっている役員が、届出をせずに放置すると何を請求されるのか
  • 届出後に給与から引かれる保険料が、いくらになってどう分けられるのか
  • 出さずに済ませる方法を探している人が、最終的にどこに行き着くのか

あなたは提出対象?二以上事業所勤務届の3つの条件と判定フロー

「2か所で働いていれば全員が対象」と思われがちですが、それは誤解です。
実際には、提出が不要なケースのほうが多いと言われています。

まずは自社・自分が対象かどうかの判定から始めましょう。
ここで判定を誤ると、以下のようなことが起きる可能性があります。

判定を誤ると起きる可能性
  • △ 不要な届出を出してしまう
  • △ 逆に必要な届出を出し忘れて遡及追徴を受ける

そのような事態にならないためにも、最初に確実に切り分けておきましょう。

判定フローチャート

判定の基準はシンプルで、「2か所以上の適用事業所で、それぞれ社会保険の加入要件を満たしているか」の1点です。

判定フローチャート
  • Q1. 2か所以上から給与・役員報酬を受け取っていますか?
     NO →【不要】
  • Q2. その勤務先はいずれも「社会保険の適用事業所」ですか?(法人/常時5人以上の個人事業所など)
     NO →【不要】(個人事業・業務委託は適用事業所ではない)
  • Q3. それぞれの勤務先で社会保険の加入要件を満たしていますか?
     片方のみ →【不要】(満たす1社のみで加入)
     両方満たす →【提出が必要】

加入要件は、正社員などの一般被保険者と短時間労働者で判断基準が異なります。

  • 一般の被保険者:1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上
  • 短時間労働者:週20時間以上/月額賃金8.8万円以上/2か月超の雇用見込み/学生でない/従業員51人以上の企業の5要件すべて

なお、この5要件のうち「月額賃金8.8万円以上」は2026年10月1日に廃止されます。

撤廃後は賃金額にかかわらず、以下の要件を満たせば加入対象となります。

加入対象となる要件
  • 週20時間以上
  • 2か月超の雇用見込み
  • 学生でない

掛け持ち勤務で両社とも要件を満たす人は、今後さらに増えていく見込みです。

提出が必要な代表ケース

以下に当てはまる場合は、届出が必要です。

ケース 具体例
正社員+副業先で両方該当 A社で正社員として勤務しながら、B社でも週20時間以上働いている
2社の代表取締役(両社とも役員報酬あり) 本業の会社に加えて2社目を設立し、両社から役員報酬を受け取っている
親会社・子会社の役員兼務 グループ会社の取締役を兼務し、それぞれから報酬が出ている
2か所のパート勤務で両方該当 2つの勤務先で、いずれも短時間労働者の要件を満たしている
70歳以上で複数事業所に勤務 厚生年金の被保険者ではないが「70歳以上被用者」として届出が必要

提出が不要な代表ケース

一方、以下のケースでは届出は不要です。慌てて手続きする必要はありません。

ケース 不要な理由
会社員+個人事業を営んでいる 個人事業は社会保険の適用事業所ではないため、カウントされない
会社員+YouTuber・ブログなどの個人活動 同上。雇用関係がないため対象外
2社目の役員報酬が0円 報酬を受けていなければ被保険者にならない
2社目で加入要件を満たさない 週の労働時間が短いなど、要件未満であれば1社のみの加入
業務委託・請負契約で働いている 雇用関係ではないため、社会保険の加入対象外

実務上、最も多い誤解が「会社員+個人事業主」のケースです。

副業として個人で事業を営んでいても、それが適用事業所でなければ二以上事業所勤務には該当しません。

「従業員」より「役員」のほうが該当しやすい理由

二以上事業所勤務届が必要になるのは、従業員よりも役員のほうが圧倒的に多いというのが実務の実感です。

理由は、加入要件の判定方法が両者で根本的に違うためです。
従業員は、「労働時間」で判定されます。

一般の従業員は、正社員の4分の3以上(おおむね週30時間以上)働くことが加入の基準です。
2社でこれを両方満たすには週60時間以上の勤務が必要になり、物理的にほとんど成立しません。
短時間労働者の要件で両社が該当するケースはありますが、それでも限定的です。

役員は「労働時間」では判定されない

これに対して法人の役員は、勤務時間ではなく実態で判断されます。
昭和24年7月28日保発第74号を補う日本年金機構の運用解釈では、以下の6つの要素から総合的に勘案するとされています。

役員の判断要素
  • 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
  • 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか(← 記事には欠落)
  • 当該法人の役員会等に出席しているかどうか
  • 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
  • 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
  • 当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか

この6要素で判断されるため、役員は複数の法人で同時に加入対象となりうるわけです。
とくに代表取締役は、非常勤扱いが認められません。

そのため、役員報酬が0円でない限り届出が必要になります。
複数の会社から役員報酬を受け取っているにもかかわらず届出をしていない、というケースも極めて多いと指摘されています。

二以上事業所勤務届は誰が出す?会社か本人かの結論

解説サイトを3つ読めば3通りの説明に出会う、それがこの論点です。
「会社が出す」と書くページもあれば「本人が出す」と明記するページもあります。
まずここに決着をつけます。

制度上は「本人」、実務上は「会社が代行」

法令上の提出義務者は被保険者本人です。
ただし実務では、会社が本人に代わって作成・提出するのが一般的です。
理由は、本人が必要な情報を持っていないためです。

  • 事業所整理記号・事業所番号は会社側しか把握していない
  • 報酬月額は給与計算担当でなければ正確に出せない
  • 提出先は選択事業所の管轄年金事務所で、本人には判断が難しい

実務では「本人名義の届出を、会社が代行して提出する」と理解すれば間違いありません。

サイトによって説明が違う理由

どちらも誤りではなく、見ている視点が違うだけです。

記述 説明している内容
本人が提出する 健康保険法・厚生年金保険法上の届出義務者
会社が提出する 実際の事務フロー(会社が代行する慣行)

なお、本人から会社への委任状は通常求められません。
社労士が事務代理として提出する場合は、提出代行者印または事務代理者印が必要です。

会社側がやること5ステップ/本人がやること3ステップ

会社(選択事業所)がやること

  1. 対象かどうかを判定する(もう一方の勤務先の加入状況を本人にヒアリング)
  2. 本人と相談して選択事業所を決める
  3. 届出書を作成し、本人に内容を確認してもらう
  4. 事実発生から10日以内に提出する(保険証・資格確認書の回収も同時に)
  5. 決定通知書を受け取り、按分後の保険料で控除額を変更する

本人がやること

  1. 両方の勤務先に二以上事業所勤務になる旨を伝える
  2. 届出書の内容を確認する
  3. 保険証・資格確認書を会社へ返却する

もう一方の会社にいつ・何を連絡するか

非選択事業所も、資格取得届を提出します。
ただし、その提出先は自社の管轄ではなく選択事業所を管轄する年金事務所です。
これを知らないと誤った窓口に提出してしまいます。
選択事業所を決めた直後に、次の3点を伝えてください。

  • どちらが選択事業所になるか
  • 選択事業所の名称・所在地・事業所整理記号
  • 資格取得届の提出先となる年金事務所名

判断に迷う場合は、初回だけ社労士にスポットで依頼しましょう。
そして、2回目以降を社内で回す進め方もあります。

選択事業所(主たる事業所)の決め方は?4つの判断基準を紹介

届出書を書く前に、必ず決めるのが「どちらを選択事業所にするか」です。
提出先も保険証も今後の窓口もすべて変わるため、最初に確定させましょう。

選択事業所・非選択事業所とは

2か所以上の適用事業所に使用され保険者が複数になる場合、本人が届出を行って保険者を1つに選びます。
選ぶ事業所が選択事業所、選ばないほうが非選択事業所です。

検索でよく見る「主たる事業所」も選択事業所と同じ意味です。
選択事業所を管轄する保険者が、その被保険者の事務手続きを一括して行います。

判断基準は報酬額・労働時間が多いほう

法令で決まっているわけではなく、最終的には本人が選択します。
実務上の原則は、次の4点です。

  • 報酬額が高い
  • 所定労働時間が長い
  • 在籍期間が長い
  • 今後も継続予定である

この基準は、届出書の選定理由欄に書く内容にも直結します。
健康保険組合の付加給付を比較して、選ぶのもありでしょう。

保険者の組み合わせ別の扱い

選択の単位は組み合わせによって変わります。

組み合わせ 選択の考え方
協会けんぽ × 協会けんぽ(管轄が同じ) 事業所そのものを選択する
協会けんぽ × 協会けんぽ(管轄が異なる) どちらの年金事務所を窓口にするか選択する
協会けんぽ × 健康保険組合 健康保険組合側を選ぶケースが多い
健康保険組合 × 健康保険組合 いずれかの組合を選択する

選択でどう変わるか(提出先・保険証・保険料率)

変わるもの 内容
提出先 今後の算定基礎届・月額変更届・賞与支払届もすべて選択事業所の管轄へ
保険証・資格確認書 選択事業所のものに切り替わり、被保険者番号も変更される
保険料率 協会けんぽは都道府県ごと、健保組合は組合ごとに異なる
付加給付・健診 健保組合を選んだ場合、組合独自の給付が受けられる

あとから選択事業所を変更できるか

結論から申し上げると、変更は可能です。
あらためて、二以上事業所勤務届を提出すれば切り替えられます。
変更が必要になる典型例は次のとおりです。

  • 選択事業所を退職し、非選択事業所のみの勤務になった
  • 報酬額のバランスが逆転し、実態と合わなくなった
  • 勤務先が増え、主たる事業所を決め直す必要が生じた

ただし変更のたびに保険証が切り替わり、番号も変わります。
当初の選択は、慎重に行いましょう。

提出先・提出期限・提出方法

届出書が書けても、提出先を間違えると受け付けてもらえません。
なぜなら、この手続きは「自社の管轄年金事務所に出す」という通常の感覚が通用しないからです。
提出先が正しいか、十分に注意しましょう。

提出先は選択事業所を管轄する年金事務所

提出先は、選択した事業所の所在地を管轄する事務センター(年金事務所)です。
自社が非選択事業所であっても、提出先は選択事業所側の管轄になります。

届出の結果、選択した事業所を管轄する事務センターが、その被保険者に関する事務を行うことになります。
つまり提出先を決めることは、今後の窓口を決めることと同じです。

制度上は、非選択事業所を経由した提出も可能です。
しかし提出先が選択事業所側である以上、実務では選択事業所を経由して提出するのが確実です。

協会けんぽの場合/健保組合の場合

提出ルートは、選択事業所の加入する保険者によって変わります。

選択事業所の保険者 提出ルート
協会けんぽ 管轄の年金事務所に、健康保険・厚生年金あわせて1部を提出
健康保険組合 厚生年金分を管轄の年金事務所へ提出し、健康保険分は加入先の健康保険組合にも手続きが必要

協会けんぽの適用事務は日本年金機構が行っています。
そのため、1部提出すれば健康保険と厚生年金の両方が処理されます。

一方、健保組合の場合は年金事務所と組合の二段構えです。
なお、保険者の一方が共済組合で他方が協会けんぽまたは健康保険組合である場合は、共済組合を必ず選択します。
この場合は、本人の希望で選べません。

提出期限は事実発生から10日以内

提出期限は、事実発生から10日以内です。年金機構の公式案内でも明記されています。

迷いやすいのが「事実発生日」の定義です。
実務上は、2か所目の事業所で社会保険の加入要件を満たした日、つまり2社目の資格取得日を指します。

  • 入社日から要件を満たす場合:その入社日
  • 契約変更で要件を満たすようになった場合:変更後の労働条件が適用される日
  • 役員に就任し報酬が発生する場合:役員報酬の支給が開始される日

この届出は資格取得届の提出が前提となるため、実務では資格取得届と同時に準備を進めるのが効率的です。

提出方法3種(電子申請・郵送・窓口持参)

提出方法は次の3つです。

方法 特徴
電子申請 e-Govから直接申請できる。ただし労務管理ソフト側が未対応の場合がある
郵送 事務センター宛に送付。マイナンバー記入時は確認書類の同封が必要
窓口持参 その場で不備を確認してもらえるため、初回は確実

注意したいのは、労務管理ソフトの対応状況です。
主要な社労士向けソフトでも、この届書には対応しておらずe-Govから直接申請するよう案内している例があります。
自社のソフトで申請できると思い込まず、事前に確認してください。

初めて提出する場合は、窓口持参が最も安全です。
その場で記載内容を確認してもらえるため、返戻による二度手間を防げます。

添付書類

添付書類は、状況に応じて次のものが必要です。

  • 資格確認書(交付されている場合)
  • 高齢受給者証、特定疾病療養受療証、限度額適用認定証、限度額適用・標準負担額減額認定証(交付されている場合)
  • マイナンバーを記入した場合は、マイナンバーが確認できる書類および身元確認書類

二以上勤務者になると被保険者番号が変わります。
そのため現在交付されている証類は返却が必要です。
本人から回収したうえで、届書に添えて提出します。

決定通知書の見方と保険証の切り替え

届出が受理されると、二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書が、選択事業所と非選択事業所のすべてに送付されます。
この通知書には、按分後の各事業所が負担する保険料額が記載されています。

通常の標準報酬月額から自動計算されるわけではありません。
そのため、給与計算ソフトには通知書の金額を手入力する必要があります。
通知書が届いたら、次の3点を確認してください。

  • 決定された標準報酬月額(2社の報酬を合算した額に基づく)
  • 自社が負担・徴収する保険料額
  • 適用開始年月

保険証については、選択事業所側の保険者から新たに交付されます。
健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカードがあれば、そのまま利用可能です。
マイナンバーカードを持っていない場合は、資格確認書が交付されます。

控除額の変更漏れは、後から遡って精算する事態につながります。
通知書を受け取ったら、その月の給与計算に確実に反映させてください。

出さないとどうなる?4つのリスクと出し忘れたときの対処法3選

この手続きで最も多く検索されているのが「出さないとどうなるのか」です。
結論から言えば、放置して得をすることはありません。

結論:罰則より「保険料の遡及徴収」が実害

二以上事業所勤務届を出さないと、保険料が正しく計算されません。
その結果、最大2年分を遡って追徴される可能性があります。

保険料を徴収する権利の時効は2年間です。
届出漏れが発覚した時点で、過去2年分の不足額をまとめて請求されます。

2社の報酬合算が月50万円で月2万円の保険料不足が生じていた場合、2年分で約48万円です。
これは、会社負担分と本人負担分の双方が対象になります。

起こる4つの不利益

不利益 内容
標準報酬月額の誤り 2社の報酬が合算されず、実際より低い等級のままになる
保険料の遡及追徴 最大2年分の不足保険料を会社・本人の双方が負担する
年金額への影響 将来受け取る年金額が本来より少なくなる
給付時のトラブル 傷病手当金や出産手当金の算定額にも影響する

見落とされやすいのが4つ目です。
標準報酬月額は給付額の計算基礎にもなるため、休職や出産で給付を受けるときに本来より少ない金額しか受け取れません。

健康保険法・厚生年金保険法上の罰則規定

健康保険法第208条および厚生年金保険法第102条では、以下のように定められています

事業主が正当な理由なく届出をしなかった場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処する

ただし注意点があります。
これらはいずれも「事業主が」届出義務に違反した場合の規定であり、二以上事業所勤務届の提出義務者は被保険者本人です。
この届出の未提出のみを理由に事業主が処罰される構造にはなっていません。

とはいえ安心はできません。
この届出は資格取得届の提出が前提であり、資格取得届は事業主の義務です。
2社目で加入要件を満たしているのに提出していなければ、明確な義務違反として罰則の対象になり得ます。

10日を過ぎた・出し忘れた場合の対処3ステップ

期限を過ぎても受け付けてもらえないわけではありません。次の順番で進めてください。

  1. 事実発生日を特定する(2社目で加入要件を満たした日。遡及の起点になります)
  2. 選択事業所を決めて届書を作成する(資格取得届が未提出ならあわせて準備)
  3. 管轄の年金事務所に連絡してから提出する(遡及期間と精算方法の案内を受けられます)

10日を1週間ほど過ぎた程度なら通常どおり処理されるケースがほとんどです。
問題になるのは数か月から数年単位の放置です。

「出さない方法」はあるのか

届出だけを合法的に回避する方法はありません。
2か所で加入要件を満たしている以上、届出は必ず発生します。
唯一あるのは、加入要件を満たさない働き方に調整することです。

  • 2社目の所定労働時間を加入要件未満にする
  • 2社目の役員報酬を0円にする(役員の場合)
  • 業務委託契約に切り替える(実態が伴う場合に限る)

いずれも本人と会社双方の合意が必要で、手取りにも影響します。
実態と異なる内容で届出をすることは虚偽の届出にあたり、罰則の対象です。

年金事務所の調査で発覚するケース

届出漏れは次のタイミングで発覚します。

  • 定時決定(算定基礎届)の内容確認時
  • 年金事務所による適用調査・総合調査
  • 一方の会社が資格取得届を提出し、二重加入が判明したとき
  • マイナンバーによる記録照合

とくに多いのが、3つ目です。
2社目が資格取得届を提出した時点で、すでに別の事業所で被保険者となっていることがシステム上で把握されます。
気づかれないという前提は成立しません。

保険料はいくらになる?計算方法と按分シミュレーション

本人にとっても会社にとっても、最も気になるのが保険料です。
「2社分が両方かかるのか」という不安をよく聞きます。
結論から申し上げると、仕組みを理解すれば計算は難しくありません。

計算の3ステップ

保険料は次の3ステップで決まります。

  1. 2社の報酬を合算する
  2. 合算額をもとに、1つの標準報酬月額を決定する
  3. 決定された保険料を、各社の報酬割合に応じて按分する

ポイントは、標準報酬月額が1人につき1つしか決まらないことです。
会社ごとに別々の等級が決まるわけではありません。
按分後の金額は、各事業所に届く決定通知書に記載されます。

計算例:A社30万+B社20万のケース

具体的な数字で見てみましょう。令和8年度の協会けんぽ全国平均料率(健康保険9.90%、厚生年金18.3%)で計算します。

項目 金額
合算報酬 50万円(A社30万円+B社20万円)
標準報酬月額 50万円
健康保険料(本人負担) 24,750円
厚生年金保険料(本人負担) 45,750円
本人負担合計 70,500円

これを報酬割合6対4で按分すると、次のようになります。

事業所 報酬割合 本人負担額
A社(選択事業所) 60% 42,300円
B社(非選択事業所) 40% 28,200円

本人は両社の給与から合計70,500円を控除されます。
会社負担分も、同じ割合で按分されます。

保険料按分シミュレーター

入力項目はA社の報酬月額、B社の報酬月額、都道府県、介護保険料の有無(40歳以上か)の4点。出力は合算報酬、標準報酬月額、健康保険料・厚生年金保険料の本人負担額、各社の按分額。
労務ソフトを導入すれば、按分後の保険料も含めて給与計算を自動化できます。

保険料は2倍になるのか

結論として、2倍にはなりません。
2社それぞれで、満額の保険料が発生するわけではありません。

合算した報酬に対して1人分の保険料が決まり、それを按分するだけだからです。
ただし、保険料が増えること自体は事実です。
これまで1社分の報酬でしか保険料を払っていなかった人は、もう1社分の報酬が加算されるため、負担額は上がります。

一方で、メリットがあることも事実です。
標準報酬月額が上がることで、将来受け取る厚生年金額も増えます。

また厚生年金の標準報酬月額は、65万円が上限です。
報酬水準によっては、合算されても保険料が頭打ちになるケースがあります。

賞与が支給された場合の扱い

賞与も月給と同じ考え方です。
各社から支給された賞与額を合算し、標準賞与額を決定したうえで按分します。
注意すべきは上限です。

  • 厚生年金:1か月あたり150万円
  • 健康保険:年度(4月から翌年3月)の累計573万円

いずれも千円未満を切り捨てた額が対象になります。
上限の判定基準が健康保険と厚生年金で異なる点に注意してください。

賞与支払届は各事業所が提出しますが、提出先は選択事業所を管轄する年金事務所です。
自社の管轄ではないため、注意が必要です。
特に、非選択事業所側は間違えやすいポイントなので気を付けましょう。

退職・喪失・解除するときの手続き

二以上事業所勤務は、始めるときだけでなく終わるときにも手続きが必要です。
ここを忘れると保険料が誤ったまま控除され続けることになります。

非選択事業所を退職した場合/選択事業所を退職した場合

どちらを退職するかで、その後の流れが変わります。

退職する事業所 必要な手続き
非選択事業所 非選択事業所で資格喪失届を提出。二以上勤務が終了し、選択事業所の通常の被保険者に戻る
選択事業所 選択事業所で資格喪失届を提出。勤務先が残る場合は、あらためて選択事業所を決める届出が必要

いずれの場合も、資格喪失届の提出先は選択事業所を管轄する年金事務所です。
勤務先が3か所以上ある場合は、1か所を退職しても二以上勤務が継続します。
この場合は選択事業所の見直しが必要かを確認してください。

保険証・資格確認書の返却と番号の再変更

二以上勤務が終了すると、被保険者番号が再び変わります。

  • 退職する事業所で交付されている資格確認書などは返却が必要
  • 残る事業所で、新しい番号の保険証・資格確認書が交付される
  • マイナンバーカードを保険証として利用している場合も、記録の切り替えが行われる

とくに注意したいのが被扶養者がいるケースです。
選択事業所を退職すると、その事業所での資格喪失にともない扶養の手続きもやり直しになります。
家族の保険証が使えない期間が生じないよう、退職前から準備しておきましょう。

二以上勤務被保険者の「解除」手続き

「解除」という独立した様式があるわけではありません。

実務上は、資格喪失届の提出によって二以上勤務被保険者の状態が終了します。
勤務先が1か所になった時点で自動的に通常の被保険者に戻ります。
そのため、あらためて届出を出す必要はありません。

ただし、決定通知書が新しい内容で届くまでは、按分後の保険料で控除を続けることになります。

提出漏れが起きやすいタイミング

次の場面では、手続きが抜けやすいので注意してください。

手続きが抜けやすいタイミング
  • △ 退職日と有給消化の終了日がずれ、二重在籍の期間が生じたとき
  • △ 転職により、退職と入社が同じ月内に重なったとき
  • △ 役員を辞任したが、報酬の支払いがしばらく続いたとき
  • △ 非選択事業所側の担当者が、自社での手続きが必要だと認識していなかったとき

とくに、最後のケースが多く見られます。
二以上勤務が始まるときに、終了時の手順も両社で共有しておくと確実です。

二以上事業所勤務届に関するQ&A6選

ここまでの内容に加えて、立場や属性ごとに判断が分かれるケースをまとめました。
ご自身の状況に近いものからご確認ください。

役員・代表取締役の場合

役員は従業員と判定方法が異なり、複数の法人で同時に加入対象となるケースが多くあります。
判定は労働時間ではなく、実態にもとづく6要素の総合判断です。

  1. 定期的な出勤の有無
  2. 役員会への出席の有無
  3. 従業員に対する指示・監督の状況
  4. 他の役員との連絡調整の状況
  5. 法人に対してどの程度意見を述べ、影響を与える立場にあるか
  6. 法人からの報酬の支払いの実態

実務上の判断基準は次のとおりです。

状況 届出の要否
2社とも代表取締役で、両社から役員報酬あり 必要
2社目の役員報酬が0円 不要
2社目が非常勤役員で、報酬が実費弁償程度 不要となる可能性が高い
2社目が非常勤役員だが、定期的に出勤し相応の報酬あり 必要となる可能性が高い

注意したいのは、代表取締役は非常勤扱いが認められない点です。
役員報酬が0円でない限り、原則として届出が必要になります。

複数の法人から役員報酬を受けているのに届出をしていないケースは、極めて多いです。
専門家からも、指摘されています。

過去にさかのぼって、追徴されるリスクがあります。
心当たりがある場合は早めに専門家へ相談してください。

パート・アルバイトの掛け持ちの場合

2か所でパートを掛け持ちしている場合、両方で社会保険の加入要件を満たしていれば届出が必要です。
ただし実際には、両方で要件を満たすケースは限られます。

一般の労働者は正社員の4分の3以上という基準があり、2社でこれを満たすのは現実的ではないためです。
該当しうるのは、両社とも短時間労働者の要件を満たすケースです。

具体的には、それぞれの勤務先が従業員51人以上の企業で、いずれも週20時間以上働いている場合などが該当します。
2026年10月から月額賃金8.8万円以上という要件が撤廃されるため、今後は該当者が増える見込みです。

70歳以上の場合

70歳以上の方が複数の事業所で働く場合は、様式が変わります。
提出するのは「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択/二以上事業所勤務届」です。

日本年金機構の公式サイトからPDF・エクセル・記入例をダウンロードできます。
提出のポイントは次のとおりです。

  • 提出先は、本人が選択した事業所を管轄する事務センター(年金事務所)
  • 新たに70歳以上被用者に該当すると同時に複数の事業所に雇用される場合は、各事業所からの70歳以上被用者該当届もあわせて必要
  • 70歳以上で新たに健康保険の被保険者となる場合は、通常の二以上事業所勤務届も提出する

なお75歳以上になると健康保険の被保険者ではなくなり、後期高齢者医療制度へ移行します。
厚生年金についても、70歳以上被用者としての取り扱いが続きます。

副業が本業の会社にバレる?

二以上事業所勤務届を提出すれば、複数の勤務先で働いている事実は両方の会社に伝わります。
理由は手続きの構造上、避けようがないためです。

  • 届出書には、両方の事業所の名称・所在地を記載する
  • 按分後の保険料を記載した決定通知書が、すべての事業所に送付される
  • 各社は通知書の金額をもとに給与から控除するため、確認が必須になる

つまり、届出をする以上は勤務先に知られることが前提の仕組みです。
対処としては、隠すのではなく事前に相談するほうが確実です。

まず自社の就業規則で副業が認められているかを確認し、必要であれば許可申請を行ってください。
近年は副業を容認する企業が増えており、正面から相談したほうがトラブルになりにくいのが実情です。

雇用保険はどうなる?

雇用保険は社会保険と扱いが正反対です。二重加入はできません。
雇用保険は、生計を維持するために必要な主たる賃金を受ける事業所1か所のみで加入します。
そのため、2か所で加入することは制度上ありません。

  • 主たる事業所:雇用保険に加入し、賃金から雇用保険料が控除される
  • 主たる事業所以外:雇用保険料は控除されない

健康保険・厚生年金は両方で加入して按分、雇用保険は1か所のみ。
この違いを混同すると給与計算を誤るため、注意してください。

家族を扶養している場合

被扶養者の手続きは、選択事業所側で行います。
届出により、保険者が切り替わります。
そうすると、扶養に入っている家族の資格も選択事業所の保険者に移るということです。

被扶養者の認定基準は、保険者ごとに異なる場合があります。
切り替え後も引き続き認定されるかを、事前に確認しておきましょう。

なお、扶養の判定に用いる収入は2社の合計額で見ます。
本人の収入が増えることで、以下のように影響が発生するケースがあります。

  • 配偶者の扶養から外れる
  • 自分が扶養していた家族の認定に影響が出る。

とくに注意が必要なのは、選択事業所を退職するときです。
選択事業所での資格喪失にともない、被扶養者の手続きもやり直しになります。
家族の保険証が使えない期間が生じないよう、退職前から準備を進めてください。

ピックアップ

CONTACT

お問い合わせ

「ひと・お金・未来」のお悩み解決は、
無料相談から。